これを語りたい

医療ドラマという理想と医療現場という現実

 “ここで諦める様な医者は……もうこの病院にはいないはずです。”

ふとAmazon primeでみた「DOCTORS 最強の名医」の1シーン

何回も観ているはずなのに何回でも思ってしまう

めっちゃかっこええ

って

医療ドラマってやっぱり何度観ても面白いなーって思うんですよね。 凄腕ドクターが超難関手術を颯爽とこなす。 患者のためなら時として権力者とも闘う。

そんな“医療の王道”は何回観ても面白いしカッコいい。

…でもね、

医療の世界って実はそんなカッコいいものばかりじゃないんです。

今夜はこれを語ろうか

本日は医療従事者からみた病院の本当の姿についてお話しします。

理想を語る医療ドラマ

“医者は患者を救う。そのことが全てだ”

私が最も大好きな医療ドラマが「医龍 team medical dragon」 坂口憲二さん演じる主人公朝田龍太郎の強烈なカッコよさに惹かれて中学の時は心臓外科医に憧れたものです。

将来はこんな風にカッコよく患者さんを救える医者になりたいなと本気で思いました。

しかし今は違います。 残念ながら少しばかり、国語と数学と理科と社会と英語の点数が足りず医師にはなれませんでしたが

理学療法士として病院に勤めて実際に患者さんに接したリアルな感想は

医療ドラマは医療の世界のほんの一部分の最もオイシイところだけを切り取っているということです。

ドクターXの「私失敗しないので」も 医龍の「患者が救えるなら医師免許を剥奪されても構わない」も普通の感覚なら言えません。

難しい手術を成功させて周りから拍手喝采を浴びることは滅多にありませんし、患者のためといって上司に逆らえば左遷されます。

医療の世界はそんなカッコいいものばかりではないんです。

病院という現実

朝、出勤するとまず聞こえてくるのは患者の奇声。

大声で、あーーと絶え間なく叫ぶ声が聞こえてきます。 次に飛び込んでくるのは便や尿の臭い。 これが毎日当たり前の様に続きます。

さらには、治療中の痛い、、苦しい、、、という訴え。 ましてや寝たきりの患者ではもはやまともにコミュニケーションなんかとれません。

いくつものチューブが繋がれ、関節は固まりきっている。 まともな会話もできずただ生きているという状態です。

(演出の都合上、ただ生きているという表現を使用しましたが、不適切極まりないことは承知しています。不快になられた方は申し訳ありません。)

この様なテレビではあまり見ない様な非日常が日常なんです。これが医療現場なんです。

 ルールでがんじがらめ

病院という場所はルールだらけです。 命がかかっているので何かあればすぐ訴訟になる。

そのため、ルールやガイドラインやマニュアルなどそれはそれは数えきれないほどあります。

これ自体は非常に大事なことです。患者やその家族、医者や看護師を守るために必要なことです。

 ところが行き過ぎたルールは時として常識を大きく逸脱します。

要するに簡単な事が難しくなる。

患者さんがちょっと売店に行きたいと言った。いや、それは病棟の決まりで無理です。

洗濯がしたいんですが、いや、それは家族さんがいないとできません。

 この様にルールにこだわり過ぎることは、時として患者さんを守るためのルールなのか病院を守るためのルールなのかわからなくなります。

そして、そんなルールでがんじがらめな歩きづらい道でも尚、患者さんのために歩を進めるのが医療職という仕事です。

おトイレはオムツでして下さいね

そんな普通では考えられない異常かつ歩きづらい場所でも、それでも尚、医療者はやっぱり患者さんを救いたい。

良くなってもらいたい。

医療を志す者は必ず1番根底にそれがあります。 ドラマの様に患者さんに寄り添って患者さんが良くなって欲しいと思っています。 しかしながらそれができない。 しないのではなくて、できないのです。

忙しすぎて

残念ながら医療職、特に看護師はまだまだ不足しています。 人手が不足していると何が起こるか、、、 それは患者さん一人一人に割ける時間が減ってしまいます。

転けてしまう患者さんが勝手に立とうとしようものなら、抑制帯を付けて車椅子に縛り付けてしまいます。そりゃ何時間も座ってたら少しくらい立ちたくもなりますよ。

しかし医療職からしたらたまったもんじゃない。

そんな事をしてしまったらたちまち転倒して骨折してしまう。打った場所が悪ければ命に関わります。

一人でトイレにまだ行く能力のない患者さんがトイレに行きたいと言った。 看護師さんはいいます。僕ら理学療法士も言います。

おトイレはオムツでして下さい。

できるわけないでしょう?

 私だって中学の時、心臓の手術をしましたが、 その後の安静期間の際にオムツかバルーンカテーテル(おしっこの管)かどっちにしますか?と言われて迷わずバルーンにしましたよ。

バルーン入れるときめちゃくちゃ痛かったんですけどね。 間違いなく人生で1番痛かったんですけどね。

それでもオムツは嫌だった。 別にどっちが悪いというわけではないんです。

決して看護師さんを責めている訳でもありません。

ただ、病院という場所はそういう場所だという事です。

寄り添いたくてもドラマみたいには行かないんです。

 1/100のありがとうのために

ここまで見てきたように決してドラマの様なキラキラした世界ではありません。 良かったと思うことよりも大変だって思う事の方が遥かに多い。

しかしそれでも尚、医療職はやっぱりかっこいいのです。

なぜか。

それは苦しみながらも必死で患者さんのために答えを出すからです。 そして悩み抜いたその答えが一際輝いているからなんです。

苦しい事は多いです。何度も挫けそうになります。

でも100回辞めたいと思った中のにある患者さんのたった1回のありがとうが、時に医療職の人生を変えるんです。 だから面白い。

このたった1回が強烈に響くんです。 だから我々は24時間365日、病院という異常な場所で正気を保って働き続けられるんです。

現実を見せる医療ドラマは

医療は大変な事の方が多い。でもその中のほんの小さな出来事が時として人生を変える。 それは医療職も患者さんも同じ。

そんな、本当の人間ドラマが見たいなら コードブルーや神様のカルテがおススメです。

特に神様のカルテは必見です。 映画もありますが、個人的には原作で読まれる事を強くおススメします。 現役医師の夏川草介さんが描く、リアルな医療。

なによりも医者ではなく、人間を描いているところが魅力的なんです。

王道の医療ドラマみたいに神の手は持っていない。残念ながら救えない人の方が多い。 その中でどう1人の人間として寄り添えるか。

医者としてではなく人間として。

そんなリアルな医療ドラマを見たい人は是非一度手にとってみて下さい。

まとめ

元金沢大学医学部総長はこう言いました。

医師の仕事はテレビドラマのような格好いいものではない。重症患者のため連夜の泊まり込み、急患のため休日の予定の突然の取り消しなど日常茶飯事だ。

死に至る病に泣く患者の心に君は添えるか

“今、多くの人間が病んでいるのに、なぜ私ひとりに構うのかね”

ートルストイ